井の中の蛙、雪国へ行く

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三人はちょっとだけ話すと、男の人は運転席へ戻り、おじちゃんとキンちゃんが二人がかりで車の後ろを押し始めた。後ろのタイヤが音を上げて空回りしている。 「あれれ、スタックしちゃったんだね」 「んだなぁ。大丈夫だべが?」  見慣れた光景なのか、カンちゃんとおばあちゃんに驚いた様子はない。スタックとは、雪やぬかるみにタイヤがはまり、前にも後ろにも進めなくなる現象のことみたい。 そうしているうちに後からやってきた軽トラックのおじいさんも加勢するけれど、なかなか脱出できない。 「僕、行ってくる!」  待ってろと言われたのにカンちゃんが車を飛び出していく。大人三人でも動かないのに、子どものカンちゃんが加わったところで何が変わるんだよ? 僕は呆れて溜め息をついた。さっさとJAFでも呼べばいいのに、と。 車を押す四人の頭や肩にはどんどんと雪が積もっていく。どんどん、どんどん。その様子を見ていたら、なんだか急にソワソワと落ち着かない気持ちになってきた。そんな僕を見て、傍らのおばあちゃんがにっこり頷き、背中を叩いた。
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