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「ほれ、陽翔君も行ってごんざい!」
その一言に後押しされて、僕は車を飛び出した。
「おじちゃん! 僕も手伝う!」
風雪と車の音に負けぬように言うと、おじちゃんは雪だらけの顔でニカッと笑って頷く。子どもは引っ込んでろとか、そんなことは言わなかった。
「よっしゃ、せぇーの、こいっ!」
おじちゃんの掛け声で両手に力を込めたけど、ざらめ雪のせいで足が滑る。僕は足首を左右に動かして足場を固めた。
「せぇーの、こいっ!」
「ふんぬーっ!!」
カンちゃんの顔は真っ赤だ。僕もだろう。ありったけの力を込めて踏ん張ると、岩みたいに動かなかった車は、ある瞬間から不思議な手ごたえと共に軽くなり、前へと動いた。
「なんと、なんと! 二人が加わったらたちまちだもの! 大したもんだ!」
おじちゃんから手放しで褒められて、くすぐったいような、フワフワした気持ちになる。カンちゃんも照れたような笑顔だ。
男性は何度も頭を下げて感謝してくれた。名前と住所を聞かれたけど、おじちゃんは「そだなごといいがら」と答えなかった。
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