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大橋は少し躊躇ってから、「気を悪くしたらごめんだけど」と前置いてから話してくれた。
「それなりにお酒が入ってたからストッパー外れて遠慮なく言ったんだろうけどさ、『あんな仕事人間のおばさんより私の方が良くないですか?』って言ったんだよ。
他の人を馬鹿にするような言い方も嫌だし、何より俺はいつも一生懸命仕事に向き合っている所も莉奈の魅力の1つだと思ってる。おばさん発言は許せない、俺には莉奈の方が断然魅力的なんだよ。もうあんな不快な思いしたくないから、これからは仕事の話であっても全部社内で聞くことにした。もう絶対に2人で飲みに行くことはしないから。莉奈も斉木さんの言うことは真に受けなくていいよ」
嬉しかった。会社じゃなければ泣いていたかもしれない。
中途半端な態度しか取れない私のことを変わらず好きでいてくれる、そう思わせてくれた。その後、大橋は手にしていたパウンドケーキをあっという間に食べ終えて自分の席に戻っていった。
「だから言っただろ、あいつなら喜ぶって。なかなか渡しに行かないから糀谷に声かけに行っちまったよ」
後ろで見ていた久藤さんが呟いた。え? まさか亜里沙が様子を見に来たのは久藤さんのおかげなの?
「亜里沙に助け求めてくれたんですか?」
「だって鞄から大橋に渡すであろうパウンドケーキずっと見えてたから、いつ渡すのか気になって仕事に集中できなかったんだよ。澤村も向こうをずっと気にしてただろ」
全部読まれてたのか。そんなに気にしてくれていたなんて思ってもみなかった。
「あの、すみません。ありがとうございます。久藤さんにこれ以上迷惑かけないようにちゃんとします」
「迷惑ってわけじゃないよ。昔好きだった人が、自分が不幸にした人が幸せになるのを見届けたいだけだから。あと、意外とこういうお節介嫌いじゃないんだ。それにプライベートの充実は仕事のパフォーマンスにもつながるからな。自分の中での正論押し付けるのも良くないってことも身にしみたから、これからはいつ相談してくれてもいいし、感謝してるなら仕事で恩返ししてくれればいいから」
紆余曲折あった上司が今では最高の上司に変わっていたことが何より嬉しかった。
「ありがとうございます。これからも仕事頑張るんでご指導よろしくお願いします」
私の言葉に久藤さんは満面の笑みで頷いてくれた。
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