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00. 序章
初めて彼のことを意識したのは今から4年ほど前の、入社してすぐのことだった。同期である大橋拓海は、いつも明るくよく話す人で、初めて同期で集まった時も男女関わらずあっという間に周りの人と溶け込んでいた。
一方私はというと、自分から周りに話しかけに行けるほど積極的なわけではないので、周囲の動向を見ながら少しずつなじもうとしていた。そんな私に大橋はゼロ距離で話しかけに来てくれた。
新人研修が終わった時点でほぼ全員と仲良くなれたんだけど、その中でも特に仲良くなったのが大橋だった。きっかけは好きなアニメが同じとかそんな感じだったと思うけど細かくは覚えていない。でも結果的に同じ部署になったので、新しい配属先でも心細さや不安といったものとは無縁で過ごすことが出来た。
慣れない仕事に苦労することも多かったけど、たまに一緒に飲みに行って愚痴を言い合ったりすることでいい感じにストレス発散もできていた。どちらかと言うとネガティブ人間な私とは対照的に超ポジティブ思考を持つ大橋に、私は何度も助けられた。そんな生活を送る中で私は大橋のことを男性として意識し始めていた。
だけど、そんな私の仄かな恋心に終わりを迎えたのは現場に配属になってから3か月程が過ぎたころだった。その日は週末で、同期で集まって家飲みをしていた。大橋を中心として話が盛り上がっている中、大橋のスマートフォンが鳴りだした。
「あ……ちょっとごめん」
スマートフォンを持って外に出て、3分程で戻ってきたかと思ったら、帰る準備を始めたのだ。
「あれ? 大橋帰るのかよ」
誰かが発した声に大橋は申し訳なさそうにしながらも鞄を手に立ち上がった。
「ごめん、彼女から呼び出されちゃって。また今度ゆっくり飲もうぜ」
みんなからのブーイングの中笑顔で帰っていく大橋を見ながら、私は芽生え始めた恋心をそっと心の奥に閉じ込めた。今ならまだ傷は浅かった、そう自分に言い聞かせて、その後もあくまで同期としていい関係を構築していた。
その後私にも彼氏ができたことで、大橋との関係は完全に良き仲間、良き同士としてゆるぎないものになっていた。男女に友情は存在しないなんてことを言う人もいるけど、私と大橋は間違いなくその関係だったと思う。
そんな私たちの関係を大きく変えることになるのは、とある女性との出会いだった。
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