愛し子へ

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『むずむずする。むずむずする。気持ち悪い。細長いのがあるところ。ごめんね』  ある日、また声が聞こえた。  何を謝っているのだろうと、不思議に思った。  いつものことだからと、気にも留めなかった。  その数ヶ月後、私の住んでいる国で大きな地震が起こった。  ものすごい被害があって、大勢の人が亡くなった。私の住んでいる場所は平気だったけれど、直視できないような酷い地震だった。 『熱い、熱い。冷やさないと。でも、追いつかない』  その声は言う。 『地球温暖化が進んでいます』  ニュースの声は言う。  ある日、声が言った。 『もう止まってしまいそう。ドロドロが、もう固まりそう。もうダメだ。守れない』  守れない、というのはなんだろう。 『さようなら、ありがとう』  いつもよりもずっと悲しそうに、声は言った。  声がさようなら、なんて言ったのは初めてだった。  それが、妙に引っかかった。 『地球の磁場が弱くなっています。このままの状態が続くと、地球を守るバリヤーが無くなり、有害な放射線などが地球に降り注ぐことになります』  まだ遠いことのように、ニュースの声が言った。  地球の中にあるマグマの海が対流しているおかげで、地球には磁場が発生しているとニュースでは説明している。マグマが完全に冷えて固まってしまえば、もちろん磁場は無くなることになる。  地球を守ってくれている磁場が無くなれば、最悪、地球は火星のような生命の存在出来ない環境になってしまうのではないか、と。  ニュースの声は他人事のように言っている。 『ドロドロが、もう固まりそう』  声は言っていた。  ふと、そのとき私は思った。  突拍子も無いことなのだけれど。  あれは、ニュースで言っているマグマのことなんじゃないだろうか。  だとしたら……。 『細長いのがあるところ』  そこがむずむずすると言った後で、日本に大きな地震が起きた。 『細長いの』  それはもしかして日本のことなんじゃないだろうか。  ずっと聞こえている、あの声。  その正体はもしかして。
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