愛し子へ

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 地球からしてみたら、日本だって『細長いのがあるところ』くらいの認識だ。  それでも、地震なら地域や国さえわかっていればそこから逃げ出せばなんとかなる。最悪、私と私の家族だけでも。信じてくれなくたって無理矢理引きずって連れて行けばいい。  でも、地球の言うドロドロが止まってしまえばどこにいたって同じだ。  この星の全ての人たちが、生きている全ての生命が死んでしまう。  もちろん、私だって。  あまりに規模がでかすぎて、自分が死んでしまうということにピンとこない。  地球のことだから、それが止まるのはいつのことだかわからない。完全に止まってしまうのはずっとずっと先のことかもしれない。  現実味がわかないのは、きっとそのせいだ。  地球の時間感覚は私たちとはズレているから。  もしも、明日か明後日、数週間後に来たとしたら運が悪かったとしか言いようがない。  あれだって、そうだ。来る来ると言われている南海トラフ地震。来るとわかっているのにみんなその地域から逃げたりなんかしないで普通に生活している。  それよりも範囲が大きすぎるけれど。  なにしろ地球全体の話だ。  そこまで考えて、私はハッとした。  ドロドロが止まるというのは、地球自身も死んでしまうということなのだろうか。  星としての命を終えてしまうということなのだろうか。 「そうなの?」  私の言葉に、声が答えてくれたことは無い。  声はいつも一方通行だった。  私にはきっと地球の独り言が、たまたま聞こえていただけ。  私の声は小さすぎて地球には届かない。  それでも、 「さようなら、ありがとう」  私はあの声と同じ言葉を口に出していた。  私の声が届くことが無くても、それでも伝えたかった。  地球が時々口にしていた愛おしいものに、私たち人間は、私は含まれているのだろうか。  もしもそうなら、私は嬉しい。
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