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それにしても殺風景な町だった。ひたすらに降り続く雪と、それに覆われた尖った屋根の家々。真っすぐ伸びた道以外行くところもないので導かれるまま進んでいくと、右手に看板が掛けられた家を見つけた。道路に面する壁がガラス張りになっているのはわかるのだが、そのガラスには雪がついてそのまま凍っていて中をうかがい知ることはできない。
首に巻いてあったチェックのマフラーを頭から被って顎の下で結びながらその店に何となく足を向けたところ、一人の女が出てきた。店の中に二度、三度と小さく頭を下げて戸を閉めてから、私の方へと顔を向けてあからさまに驚いた顔をした。やはり女も頭から花柄のスカーフを巻いていて顔の半分が隠れていたが、距離があったというのに私の目で見てもわかる程真っ赤に顔を染めて頭を下げたのだった。
女は雪になれているのだろう、私などとは比べ物にならないくらい雪の上をスムーズに歩いて来て、私の前で足を止めた。
近くで見ると、目が少し離れ気味でお世辞にも可愛いとは言い難い顔をしていたが、頬を染め上目使いで「旅の人?」と問う態度は奥ゆかしくてなかなか良かった。
「ああ、思い付きでここの駅で降りたはいいけど、宿屋もないとか」
私はきょろきょろと辺りを見回したが、そんなことをしなくても、宿がないこと店がないこと人が全く出歩いていないことも知っていた。
「宿屋……泊まる場所がないの? お兄さん」
ちゃんちゃんこ姿の女は私をお兄さんと呼んだが、年齢はそれほど変わらないのではないかと私は思っていた。
「そうなんだよ。贅沢は言わないから飯と寝床と……この冷え切った手足を温める風呂に入れればいいんだけど」
「あらぁ、贅沢は言わないとか言いながらお兄さんってば、要求が多いのね」
「お兄さんって歳じゃないから、大前と呼んでくれないか? 君は?」
「康子よ。じゃあ大前さん、うちに泊まっていく? 私一人で暮らしているから、お風呂は自分で炊いてもらうけど、それでも良ければ欲しいものは全部揃うもん」
康子という女は、自分と同じ年頃の男を泊めることに全く躊躇することがなかった。無防備というか純朴というか、私の方は女であるというだけでやましい気持ちになるただの男なのに、康子はそうではないらしい。
私はちゃんちゃんこ姿の康子を見て、浅ましく淫らな夜を期待し、その申し出を断ることなく受け入れ、康子の後を追う事になった。
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