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 あれから五十数年。殺人にも時効がある時代だった。雪が康子の発見を遅らせたことを良いことに、私は逃げおおせたのだ。  現在、親が遺した古い一軒家に、脳梗塞で右半分が動かない体で独り暮らしをしている。  事件後、雪を見たくなくて九州に居を移したのだが、親が関東に家を遺した事から、数年前から舞い戻って来ていた。戻って来たくはなかったが、金銭的に困窮していた私に選択肢などなかった。  関東は一年に数回雪が降るが、あの日の雪とは異なりみぞれに近くやたら水分量が多い。雪が降ることに不安を覚えなくはなかった。それでも、あの日の雪と性質が違う関東の雪に幾分胸を撫でおろしていた。  そんなある日、私は気がついてしまった。私の周りだけなぜかサラサラの雪が降ることを。服に付いても払えてしまう細かい雪の粒。  空恐ろしくなった私は、雪が降ると繁華街に赴き時間を潰したり、友人を尋ね歩いたりして極力一人にならないように心がけた。罪の意識が私を怖がらせるだけだと言い聞かせていたが、粉雪がそんな私を嘲笑う。私は必死になって粉雪から逃げ回っていたのだった。
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