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まだ師走だと言うのに、今夜は雪が窓を叩いている。体をずらす程度の移動しか出来ない私は先ほどから震えが止まらない。今の私には逃げることが出来ないというのに、雪が空からひっきりなしに落ちてくる。雪が窓に張り付きだし、遥か昔にみたあの光景を彷彿とさせた。
その時、ガラガラと玄関の引き戸が開く音を聞いて、私は思わず自由の利く左手で介護用ベッドの手摺を握りしめた。
もしかすると民生委員の片瀬さんが様子を見に来てくれたのか。時々くる民生委員を煩わしいと思っていた癖に、今日は片瀬さんであってほしいと心から願っていた。
「片瀬さんか?」
私は震える左手で介護用ベッドのリクライニングボタンを押した。ウィンと唸ったベッドはじわりじわりと上半身を起こしていく。
「片瀬さん? 片瀬さんなんでしょ?」
ギギっと鳴くのは階段の音。ギギ、ギギと音が上がってくる。
「片瀬さん!」
ヒステリックに呼び掛ける私のこめかみから冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
木の軋む音に混じり、雪を踏み締めるギュギュと言う音が混じっている事に気がついた時、ドアがすうっと開いて私は恐怖のあまり絶叫した。
康子が立っている。そう認識した時だった、ヒュンヒュンと聞いたことのある音がしガツンと衝撃を覚えた。康子の少し離れた目が私を見つめている。私は前のめりに倒れ世界は何もかも赤く染まっていくのだった。
「お兄さん、おいていったわね。だから、迎えに来たわよ」
康子の声が耳元で囁いた。
おわり
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