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「至近距離で接した花菱シンデレラがあんまりにも素敵で胸をときめかせるものだから、王子の私は学芸会の練習中ずっとドキドキしてた」
「うん」
「で、学芸会が無事に成功したら告白しようって、幼いながらも決意したのね。だけど、いざ学芸会が終わったら、」
「おわったら?」
身を乗り出す私に、彼女はため息をつく。
「花菱くん、男女問わずみんなに同じ理由で告白されてたの。そのとき魔法が解けて、みんなも気付いたわけ。花菱くんが異常にキラキラして眩しく見えるのは、恋じゃなくて本人の性質。花菱くんが優しいのは、私が特別だからじゃなくて本人の性質。花菱くんが自分と親しげに話してくれるのは、本人が謙虚で気さくな性質だからってだけの話だった」
「初恋泥棒だ。盗んだもの、すぐに返してくれるけど」
「ほんとにそう、花菱くんって初恋を具現化した存在だからみんながいちどは通る道なのよ。逆に花菱くんを通らないと、適切な免疫がなくてヘンな恋の病を患ったりするからね。予防接種と思いなさいよ」
私は案外素直なところがあるので、抗わずに納得した。ココちゃんのスピーチには説得力がある。
彼ひとりだけ異常にキラキラ眩しくておかしいな?と感じていたけど、おかしいことなんて何もなかったのだ。でも、あんなに優しかったり可愛らしかったりすれば、こちらが勝手に勘違いしちゃっても仕方ないと思う。
でも、モモキはすぐに誤解と魔法を解いてくれるからやっぱり優しい。
胸に、ちくんと一瞬の痛みが走る。その刺激は恐れていたより小さくて、平然と話題を転がせる程度の軽傷だ。ちょうど予防接種とおなじくらいの痛み。
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