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多くの生徒たちがスマートフォンで写真を撮りながら観覧している。学校の王子様でありお姫様でもある花菱百喜による作品ということで、確約された高い価値と同時にみんなが親近感を持って芸術に触れていた。
「梅田さんも来てくれていたの?」
およそ4年ぶりに間近で耳にしたその声は、雪山を流れる天然水みたいに透き通っていた。
後ろから声をかけられた私が振り返ったのはもちろん、隣にいたココちゃんも、その付近にいた生徒全員がぎょっとして注目した。
期待通り、立っていたのはここに展示されている絵の全てを描いた花菱百喜だ。
栗色の髪がきらきら光っていて、彼が小首をかしげると天使の輪っかがさらりと揺れた。もし私に絵を描く才能があったなら、この瞬間を切り取って自分の手で描いて残しておきたかった。
同じクラスどころか隣のクラスになることもなく、共通点などどう探しても同じ学院の生徒である以外に見つからないので、私たちが会話するのは中1の美術室以来だ。
久しぶりだね、みたいな挨拶でさえ烏滸がましいような気がして返事が遅れた。
眩しくて目を細めたくなったけど、花菱百喜は誰にとっても平等に眩しいものだという自然の摂理を思い出せばいい。そうするだけで、すうっと一呼吸をおくと無駄な緊張をほぐして素直に褒めることができた。
「どれも素敵な絵ばっかりでほんとにすごいね。この才能を一滴でも飲ませて欲しいよ」
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