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花菱くんがこちらに歩みを詰めると、柔らかい花束の香りがした。こんなに本人にぴったりフィットする香りを纏うことって、高校生にもできるんだ。
「ふふ、ありがとう。僕は梅田さんの絵にも才能を感じるけどなあ」
「私の絵を知らないから言えるんだよ」
「知ってるよ、課題の自画像」
「うっそ、あのときを覚えてるの?」
てっきり私だけに刻まれた記憶だと思っていた。モモキは「忘れるわけないでしょ」と言って拗ねたように唇を結んだ。
ああ、もうじゅうぶんだ。その瞬間に私の初恋はようやく完全なる昇華を遂げたので、妙なプライドや感情もなく呼ぶことができた。
「てかさあ、私のこと騙したよね?“花菱くん”も慌てて提出したみたいなこと言ってたから仲間意識を抱いていたのに」
大袈裟に眉根を寄せてしかめ面をつくってみせる。すると私の皮肉を受けた彼はわずかに目を見開き、反論や謝罪でもない何かを言いかけた。
しかし、私の肩をぽんと叩いたココちゃんによって、その口はすぐに閉じられた。
「中等部時代にマネが花菱くんと会話したって言ってたの、妄想じゃなかったのね」
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