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花菱くんほど完璧超人の聖人君子なんてもはや訝しいので、いっそのこと金メッキでコーティングされただけの人であってほしい。そんなわけないけど。
「花菱くんって誰にでもそうなの」
「そうって?」
「そう、スウィートなの?」
「どうかな。なるべくみんなに親切な人間でありたいけど、もしかすると梅田さんにだけは特別スウィートかもしれない」
まるで繰り返し過去問を解いたあとの試験で、同様の問いに回答するみたいだ。するすると簡単に完璧な答えを述べていく。
心がこもってないとは言わないが、これが上級貴族だけがどこかで習う教養の一部だとしても納得してしまう。私にはこんな回答、到底思い浮かばない。
「どうして?そんなに優しくしなくていいよ、私なんかに」
私なんかに、というのは別に卑下でもなんでもない。花菱百喜に気を遣わせるほどの生物はうちの学院に存在しないのに、全ての生物それこそ池で飼われている錦鯉にまで親切であるのが花菱百喜だ。
彼は嫌味なく微笑んで、私のブラウスの襟をさっと整えた。丁寧で繊細な指先には一切の他意がなく、その自然さが男子高校生にしてはやや不自然だ。
「ほんとうはもっと胃もたれするほど甘やかしたいよ、お得でしょう?」
しかし、この人の言動としては何ひとつとしておかしくない。あんまりにも麗しい人がとろける眼差しでわらうので、私はアホみたいにぽけーっと見惚れて、なんかもうお得とかどうでもいい、むしろこのひとを独占できるなら500円支払ってもいいとさえ思ってしまった。
この梅田真音が、だ。私から財布を盗むなら今しかない。
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