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「もしかして、花菱財閥の御曹司?」
「そうだけど、おなじ1年生だし気軽にモモキって呼んでほしいな」
彼のまわりには繊細な光の粉が舞っていて、眩しさのあまり目を細めてしまう。オーラだ。オーラが視える。
けっしてギラギラした下品な華美さはなくて、むしろ純真無垢な彼を包み守るかのように纏われていた。
花菱は、金融やら不動産やら医療やら音楽やら美術館やら何やらで世界屈指の資産家となった大財閥の家系だ。
現当主の花菱壱会が当時のトップ女優と結婚したのは有名な話。推測するに、それが目の前の彼の両親である。
テレビなどで見かける花菱壱会の気さくなのに上品な特有の佇まいと、結婚を機に芸能界を引退した母親による極上の美貌を黄金のバランスで受け継いでいるので間違いない。
「モモキ?漢字は?桃の木?」
「ううん、百回喜ぶって書いて百喜」
「なるほど。ぜいたくな名前だね、湯屋に行ったらヒャクって呼ばれるよ」
モモキはいかにも世間を知らなそうな無垢な眼差しを私に向けて、「そんな面白いこと、はじめて言われた」と感嘆した。
面白がってくれるわりに笑ってはくれないので、私のユーモアを興味深いものとして受け取っているのかもしれない。
話の区切りがついたのでモモキが立ち去るかと思いきや、彼はにこにこしながら立ったままだ。
不思議がっていると、モモキはねだるように私に尋ねた。
「あなたの名前は?教えてくれないの?」
無礼なことをしてしまった。名乗るのをすっかり忘れていた。
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