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そこには、いまにでも微笑んでくれそうな無表情の美少年がいた。長い睫毛の1本1本まで繊細に描かれており、じつは写真だったと言われても信じてしまう。
みずみずしい艶玉肌の質感まで伝わってきて、思わず触れてみたくなる。放課後の美術室で見た実際の彼の白い肌も陶器のように綺麗だった。
「これ、モモキが描いたの?」
「うん、どう見たってこんな美少年は花菱くんしかいないでしょ」
「モモキを描いたってことはわかるんだけど、モモキが描いたってことは納得できない」
先生が描いたか、あるいは花菱のパイプで繋がっている画家に描いてもらったか。
私は芸術への造形が浅くて薄いから正しく説明できないけど、これってたぶん相当うまい。さすがの私でも分かる。ただ写実が上手いだけじゃなくて、なんていうか、モモキ特有のオーラが完全に“視える”のだ。
私、モモキに限っては、オーラが“視える”人だから。てかこういう特殊能力って、おカネになりやすいよね?
それにしても学校指定の同じ絵の具を使ったはずなのに、自分のそれと見比べれば月とすっぽんで乾いた笑いが漏れてしまった。ははは。
てか、自画像におけるモモキってずるじゃん。対象物本人の質が絵の質にも比例するでしょ。対象物がモモキなら、私だってもうちょっとマシに描ける。たぶん。
「花菱は私立美術館の経営で莫大な財産を築いたし、芸術に関して超一流なのは知ってる。でもそれって教養があるから目が利くとか、美的感度が鋭いとかの話じゃないの?」
「花菱財閥はそうね」
ココちゃんは頷いて、再び花菱百喜の肖像画を視線を預けた。私もそれに続く。
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