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「でも花菱くんが特別すごいのは、自分で絵を描いたり楽器を演奏したりできることだよ」
「特別なの?」
「花菱の人間は芸術作品における本物と贋作を見分けられたり芸術の価値を判断する消費の目線に優れているんだけど、生産側の才能まで持ってるのは今の時代だと花菱くんだけなの」
「時代?」
「そ、100年に1人現れるとか現れないとか」
どうやらモモキは、花菱財閥のなかでもすごい人らしい。おっとりした話し方や気さくな雰囲気のせいであやうく騙されるところだった。なーんだ。
「自画像の提出、モモキも直前に焦ったって言うからすっかり安心してたのに」
「待って、花菱くんとそんな会話を?」
「うん」
会話っていうか、名前を教え合った程度だけど。とはいえ、私の心の誕生日ケーキが明るく照らされるにはじゅうぶんなくらいの会話だった。
「ずっと気になっていたんだけど、どうして花菱くんを呼び捨てしてるの」
「本人から『気軽にモモキって呼んでほしい』って言われたんだよ」
むんっと胸を張って返すと、ココちゃんが「妄想じゃなくて?」と疑いの目を向けてくる。え、妄想だったのかな。
「まあ、本人から言われたなら本人の前ではそう呼んでいいだろうけど、それ以外の場所では花菱くんって呼んだほうがいいよ」
「そうなの?」
「そうだよ。これ、内部生からのアドバイスね」
内部生からのアドバイスなら間違いないので私はこれから花菱くんと呼ぶことを誓い、深く頷いた。
でも、ほら、本人とお話しする機会があれば、そのときはモモキって呼んでもいいよね?
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