新古典主義

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 耳を澄ますと、いやそうせずとも生徒たちがキャッキャと控えめにはしゃぐ声が聞こえてきた。花菱百喜は、本人が不在でも彼が描いた作品ひとつでみんなの心を色めきだたせる存在らしい。 「花菱くんに失恋するのってうちの学院における通過儀礼だから。花菱くんに失恋してからが思春期、花菱くんへの初恋はノーカウント」 「それも、内部生からのアドバイス?」 「そういうこと。ちなみに私は小2のとき、花菱くんのことが好きだった」  淡々と諭すココちゃんは恥ずかしげもなく自分の過去を露呈した。 「小3では好きじゃなかったの?」 「話すと長いけど、聞く?マイ・スウィート・メモリー」  壁にかかっている時計を見上げると、チャイムが鳴るまで余裕があった。「まあ、時間あるし」と私が促すと、彼女は手を組んで遠くに眼差しを送った。あーこれ、だるいやつかも。 「私は小2のときに花菱くんと同じクラスだったんだけど、学芸会で私が王子様、花菱くんがシンデレラ役だったの」 「花菱くんが王子じゃないんだ、多様性だね」 「ハア、そこから?花菱くんより美しくて優しくて動物にも好かれる子なんていないんだから、花菱くんが主役のシンデレラになるのは当然でしょうよ」 「うん、当然だね。話を止めてごめん、続けて」  手を出して「どうぞ」の姿勢をとると、満足そうにココちゃんは眉を持ち上げた。たしかに彼女は、ヴァイオリンよりも重たいものを担いだことがない学院の男子たちよりもはるかに王子様然としている。
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