Fをぶっ壊せ

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「Fをぶっ壊せ」 「天野 望結(あまの みゆ) 9月1日付で1-Fへのクラス替えを命じる」  望結は掲示板に貼られた紙を見て、愕然とした。うそ、うそでしょ。望結の側にいた、美琴と麻友がそっとあとずさり、望結は距離を取られるのを感じた。 「Fクラス?」 と美琴が呟く。 「もう私たちおわりだね。おちこぼれなんかと一緒にいたら、私まで成績下がりそう」  と麻友は美琴の手を引くと、昼ご飯を食べるために食堂へ向かった。望結はあっけない友達との別れにも、呆然としたまま掲示板を見つめていた。  Fクラス。それは、この私立百合ヶ崎学園(ゆりがさきがくえん)にもうけられた「落ちこぼれクラス」である。  この学園には暗黙の学園内カーストが存在する。Aクラスは成績優秀、品行方正のエリートが集まるクラス。そこから、成績や学習態度に応じて、Bクラス、Cクラス、と分けられていく。そしてFクラスとは、何らかの著しい問題がある、と判断された生徒が集められる落ちこぼれクラスなのである。  Fクラスは本校舎ではなく、さびれた旧館を使うことになっているし、カリキュラムも異なり、施設の利用すら制限される。もはや差別だ。そして、生徒たちはFクラスの生徒を蔑み、嘲笑している。  望結はDクラスの生徒だったが、Fクラスよりはましだと、ずっとFクラスを心の中で見下し安心していた。それがFクラスに移動になるなんて。 「(なんで、なんで?確かに夏休み前のテストの成績はあんまりよくなかったし…でも学年で200人中170位なんて、Dクラスじゃ珍しくないし…この間の面談で私なにかした?)」 と望結は頭をフル回転させるが、それらしい理由には思い至らない。  ぼうっとしていると、麻友が望結のスクールバッグを手に戻って来た。美琴と麻友とおそろいで買った兎のマスコットが揺れている。 「麻友…」  麻友に抱き着こうとした瞬間、望結は胸にバッグを押し付けられた。 「さっさと移動してちょうだい、いつまでもクラスにいると邪魔だから」  望結はバッグを慌てて抱える。麻友はくるりと踵を返すと、もう望結のことをみようとはしなかった。
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