古池くんは絶体絶命

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 原因は君ですが? と思うけれど、勝手にダメージを受けているのは古池の方なのでなんとも言えない。…もっと度胸強くなりたいな。せっかく花月くんが名前を呼ぼうとしてくれているのに、自分がこんな感じでは、お互いの名前を呼び合うなんてどれくらいの時間がかかるんだろう。 「……花月くん」 「なに」 「僕、がんばるよ。屈強な精神を手に入れて、なんかこう、もっと強くなって、簡単にしにかけないような男になる。花月くんにころされない」  古池的には強い決意のこもった言葉だった。友だちでいるにしろ…恋愛をするにしろ、これほど貧弱ではどこかで何かしらの支障をきたす。と、思う。なので今から心を鍛える。そして名前を呼ばれたくらいで立てなくなる、なんて事態を克服する。うん、なかなかいい考えだ。 「いや、別にならなくていい」  と思ったのだが、温度に差がありすぎた。古池の言葉をさらりと流して、花月は続ける。 「だってそれ、慣れるってことだろ。俺は古池に意識してほしくて──古池と恋人になりたくていろいろがんばってるんだから、古池は俺のやること全部にちゃんとどきどきして。俺の前では屈強になんかならないで」 「…は、はなつきくん」 「うん」 「前は、ころされる前に慣れろ、みたいな事を言っていたような」 「そう。じゃあ言い方を変える」  まだしゃがんだままの古池としっかり視線を合わせて、花月は口を開く。 「俺に惚れて。それで、一緒に生きようよ、はるとくん」    正しく、古池をころすための文句だった。まだまだ夏は先のはずなのに、全身が熱い。慣れなくていいといった彼は、おそらく郵便ポストみたいな顔色をしている古池を、それ以上の言葉は使わず見守っている。  その目が、あまりにも柔らかいから。  屈強な心なんて志す暇もなく、古池は今日も絶体絶命だった。
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