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「夢乃は僕の中学のときからの友達で、相談したいことがあるときだけああして一緒にお昼を食べてもらってるんだ。放課後とかにわざわざ時間とってもらうの、悪いから」
「友達ならそういうの気にしなくていいんじゃないの」
「……友達だから、気にしちゃって」
えへ、と誤魔化すように笑ってみても、花月が抱いた疑問は消えないだろう。わかってはいるけれど、ここで自分の友人観を切々と語るのは時間がもったいない気がする。だってせっかく、彼と二人なのだ。この時間はもうすこし、他のやり方で噛み締めたい。古池がこれ以上話題を広げる気がないのを察すると、花月はおとなしく手元のカメラへ意識を向ける。
「案内してくれたし、ここらでいい。適当に撮ろう」
「う、うん。景色を撮るの?」
「豆粒みたいな建物ばっか撮ってもつまんない」
「じゃあ花月くんを」
「いや」
否定だけを口にして、花月はじっと古池を見下ろした。長いまつげの影が、柔い陽の光を受けて頬に影を落としている。こんなに見られるんだったら今朝もっとちゃんと顔を洗っておけばよかった。髪型もなんかこう、いい感じにしておくんだった。具体的なイメージはひとつもわかないけれど、とにかくいつもよりちゃんとしておけばよかった。やがて花月は、階段の踊り場を指差す。
「お前がそこ立って」
「えっぼく?」
「はやく」
「あの」
「たって」
「花月くんの方が絵になる、と、思うけど…」
「俺が撮りたいの」
なんて言われれば、古池に断る理由はない。だって他でもない花月からのお願いだ。そうであれば絶対に叶えてあげたい。世界征服とか、そういう無茶なものでなければ。
後で僕にも撮らせて、と言ったら、彼は嫌がるだろうか。指定された位置に立つと、扉を開いたときと同じような、冷たい風が後頭部をなでた。どうやら春はまだまだ温まらない。ここから見下ろせるすべての背景をバックに、古池はぎこちなくその場に佇む。
視線を感じる。インスタントカメラ越しに花月が自分を見ている。先日まで話すことさえ奇跡だと思っていた相手といま向かい合って、そして写真を取られている。今日の帰り、最寄りの神社へ行ったほうが良いかもしれない。別にそこでこんな状況が生まれるようにお願いしたわけではないのだけれど、とにかく何かに感謝をしたい気分だった。ありがとう世界。僕今すごく幸せです。ありがとう。ありがとう、花月くん。
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