花月くんにころされる

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「お前その顔わざと?」 「えっ」 「なんかすげえ、まずいもの食べた後みたいな顔してるから」 「あ、ご、ごめん、写真撮られ慣れてなくて、緊張しちゃって…」  あと君に見られてるって事実がしんどくて…とはとても言えない。この場合のしんどいは良い意味のしんどいだ。かっこよすぎてつらいとか、そういうときに使う感じのやつ。伝われフィーリング、花月くん以外に。  指摘しても治らないぎこちなさは諦めることにしたのか、花月はシャッターを切ると、インスタントカメラから顔を離す。 「お前はどこで撮るの」 「……あ、あの」 「うん」 「……なんでもない」 「なに」 「き、今日は寒いなあって思って」 「そう?」 「ぼ、僕は特にこだわりもないから、その辺りの景色をとろうかなあ…なんて…」  言えない。君の写真を撮らせてほしいなんてとても。今日の分の勇気はこの状況を作り出すのにすべて使ってしまったようだ。だからもう、いいだろう。自分はよく頑張った。頑張り尽くして灰になりそうだ。声をかけて一緒に課題をこなすだけでこれでは、友達への道はまだまだ遠い。  これからだ。友達っていうのはきっと、一日でなるものじゃない。時間がかかっても、ゆっくり彼のことを知っていこう。だって顔を上げれば、前の席には花月くんがいるんだから。 「インスタントカメラでも、自撮りってできるんだよ」  は、と間の抜けた音が漏れそうになって、あわてて唇をきゅと結ぶ。花月は相変わらずきれいで、そうやって計算され尽くしたような顔で、なんでもなさそうに古池を見ていた。 「じ、自撮り…ですか」 「また敬語になってる」 「あ、ご、ごめん」 「怒ってないから謝らないで。あとカメラ、ちょっとかして」 「ど、どうぞ」 「ここ。鏡みたいなの、ついてるだろ」  桜色の爪が、おもちゃみたいなカメラのレンズの横にある銀色をつつく。何かネジとか、そういう部品が露出しているだけかと思っていたけれど、たしかにその表面は鏡のようにつるりとして、覗き込む二人の顔をそのまま写し取っている。 「レンズをこっち側に向けて、ここに映った画を確認しながらシャッターをきるの」 「へ、へぇ…」  そうすると、そこに映った通りの写真が撮れる、ということか。なんだかすごく、斬新な技術だ。 「花月くん、詳しいね」 「そうかな。…そうかもね。それじゃあほら、きて」 「…きて?」
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