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「そう、こっち」
招かれるまま、花月の横に身体を並べる。もしかして、僕の後ろの景色が撮りたかったんだろうか。それは、気が付かなくて申し訳ないことを…。
「顔、あげて」
「えっ」
ぱしゃ、と軽い音がした。いま、なにが。キャパシティの限界を超過し、停止した古池の横で、花月はカメラのレバーをぐりぐり回している。
……つ、
「…ツーショットだ…!?」
「…そんな驚く?」
「だってこんな…!」
まるで友達みたいなこと…! 声も出せずに口を開いたり閉じたりしていると、花月がわずかに目元を緩め…た、ような気がした。
「お前のことは撮らせてもらったのに、自分のこと撮らせないのはずるいかなって」
「そ、そんなこと、気にしなくても」
「そう? とりあえず、これで課題は終わったよな。戻れる?」
戻れる? というのはつまり、その写真で大丈夫か、とりなおさなくて良いか、という意思確認だ。察すると同時に、首がおかしくなるんじゃないかってくらい頷く。人生史上、いま自分の手元にあるカメラへ収まっているツーショットよりも価値のあるフィルムなんて無い。
…花月くんと、写真を撮ってしまった…!
古池の様子を見た花月は了承したようにうなずいて、両開きの扉を開ける。外からだと、室内の廊下がなんだか暗く見えた。花月が先に中へ入って、古池はあとに続く。ばたり、と扉を締めても、花月は動き出さない。どうしたんだろう。まさか、もう課題は終わったんだから、ここからは別行動がしたいとか。美術室へ戻る僅かな期間でも、自分とは一緒にいたくないとか。今までの言動の中に、そう思われる要因が存在していたとか…。
「あのさ」
「はい」
「ここ、どこだっけ」
あっけにとられたのは古池の方だった。ぱちぱちとまばたきをして、やがて花月がここへ転校してきてからまだ数週間しか経っていない身分であることを思い出す。
「あっ、花月くんこっちの校舎まだきたことなかった?」
「なかった」
「ごめん、ここけっこう美術室から離れてて」
「そうなんだ。じゃあ急ごう、古池」
「え、」
「もうすぐ三十分だから」
花月が自分の携帯で時間を見せてくる。待受、真っ黒だ。初期画面なのかな。そういうのあんまこだわりないタイプで、いや。いやいや。古池がひっかかったのはそこではない。
いま、聞き間違いでなければ確かに、
「ねえ」
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