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大混乱を極めている頭でも、花月に声をかけられたのだということは理解できた。我に返った古池は、はっとして視線を巡らせる。他のクラスメイトが少し残念そうに、あるいは好奇心をむき出しに古池を見ていた。途端に冷や汗が背中を伝う。大勢に注目されるのは苦手だ。なれていないと言うか、なにか変なことを思い出しそう、というか。
なんとか足を動かして、慌てて教室を飛び出すと、古池は花月の背中を追いかけた。
昼休みの購買は賑わっている。適当に品物を選んでいる花月の姿を確認しながら、古池はいつものように一番安いパンを選ぶと、早々にその喧騒から離れた。彼は背が高いから、少し離れても頭が見える。何センチくらいあるんだろう。身長を聞くのって、クラスメイトとして普通かな。考えながら、戦利品であるパンを抱え、がま口の財布を揺らして小銭の残りを確認する。うん。今月もうまく節約できそうだ。なんて満足気に所持金を見つめていたら、その手元に影が落ちた。なんだろう、と思って見上げると、花月の顔がある。あ、まって。いきなりの至近距離はしんでしまいます。
「なんだ、普通のパンじゃん」
「え、」
「いつも急いで出てくから、人気メニューの争奪戦でもしてんのかと思った」
「見てたの!?」
「後ろの席だし」
「後ろの席だけど…!」
「好きなの、それ」
「とくには……あ、お、おいしいよ! おいしいけど僕は、一番安いのがほしくて」
「へえ」
そういう花月の手には焼きそばパンがあった。定番で人気のあるやつだ。焼きそば好きなのかな。そんな些細な好みでさえなんだかちょっと可愛く見える。焼きそばかあ、えへへ。なんて。
「花月くんも買えたんだね」
「ああ、うん」
「それじゃあ僕はこれで…」
「なにしてんの」
「えっ」
「食うだろ、一緒に」
言われた言葉が、意味を置き去りに頭へ入ってくる。食うだろ、一緒に。食う。一緒。食。
一緒に、食べる!?
「花月くんと僕が!?」
「やだ?」
「やじゃない! むしろ好」
「なに?」
「なんでもない!」
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