花月くんにころされる

19/24

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
 勢いで告白しかけてあわてて口を噤む。なんだこれは夢か? これが白昼夢というやつなのか? 絶対に違うけど嬉しいことに変わりはない。どうしよう。もしかして今日地球って終わるんじゃ。てっきり誘われたのは購買への同行だけと思っていたので、予想外の提案に頬が緩みまくってしまう。おひる。花月くんと一緒に。 「あ、さ、誘ってくれてありがとう! どこで食べる?」 「中庭とか? お前が前に友達といたとこ」 「えっ、あ、あんな、隅っこの方でいいの?」 「いいよ。なんとなくだけど、お前人が多いところあんま好きじゃないんだろ」 「…ち、超能力まで備わっている…?」 「大げさ。見てたらわかったよ。ほら、行こう」  意識をすると、心臓が落ち着かない。人間は一生のうちに脈打てる回数が決まっているらしいから、たぶん古池の寿命はここ数日で数年は縮んだ。花月くんが原因なら本望です。半ば夢の中を散歩しているような気持ちで、古池は歩き出した花月の後へ続き、廊下の扉から中庭へと出る。人気のある、手入れの行き届いた花壇からは遠く離れた場所。元気がなく、枯れ木と判断されたっておかしくないような植木ばかりが立ち並ぶ庭の側にあるベンチに、花月は座った。正しくこの前古池と兵藤が座っていた場所だった。  花月がそこにいるというだけで、古池にはどんな景色でも輝いて見えた。ふるいベンチに座って、ラップに包まれた焼きそばパンを膝の上に乗せている。そんな普通の光景でさえ、切り取った雑誌の表紙だと言われたってなんの疑いも持たない。もしも花月の姿が何かしらの手段で紙媒体になったら、お守り代わりに持ち歩きたい。そうすれば無限大の元気をもらえる気がする。…やっぱり、こじらせ具合が増したのかな。 「そういえば、中庭って室内履きで来ていいんだな」  古池が顔を曇らせていると、花月が自身の足元を見ながら言う。 「花壇があって天井がガラスなだけで、ほとんど室内だからね」 「…なにしてんの?」 「座ろう、かと」 「俺の前のコンクリートに?」 「うん」 「いや、となりでしょ」 「となり」 「俺のとなり。ベンチ」 「ひぇ…」 「なんでそんな怯えてんの」 「お、恐れ多くも…失礼いたします」
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加