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「そ、そう、なんだ」
「お前は?」
「え」
「なんで俺に興味があるの」
まさか聞き返されるとは思っていなかったので、声が上ずる。どきっとして花月の方へ顔を向けると、彼はまっすぐに古池を見ていた。いつものようにきれいで、あまり感情は読み取れない表情だった。
「美術のときとかも、なんかしにそうな顔で声かけてきたから」
「う、うん」
「しにそうになるくらい、俺の何が気になってんのかなって」
当然の疑問だとは思うけれど、それにたいし素直に答えられるかというと、まったくもってそうではない。花月になぜ話しかけたのか。その理由を言うということはつまり、後頭部のあれとかニットになりたいとか焼きそばパンとか、いままで心中で好き勝手申し上げてきた、本人に言ったらドン引きされそうな案件の数々を間接的に自白しなければならないということで、いやだ、友達にもなれないうちから嫌われたくない。それでも、全くの嘘を答えるなんてことはしたくない。ウンウン唸って答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。どんな言葉なら、この気持ちをうまく伝えられるんだろう。
さすがに長すぎる沈黙だった。そろそろなにか言わなければ。答えはまとまっていなかったけれど、古池は意を決して口を開く。
「は、はなつきくん」
「あのさ」
「はい」
「俺に、お前がそんなになる価値ってある?」
花月が何を言ったのかわからなかった。ほとんど反射的に顔を見返すと、気がつけばパンを食べ終えていた花月はぼんやり空を見上げている。疑問のような語感ではあったけれど、古池に答えを期待しているわけではないらしい。
「昔から、なんか特別扱いしてもらえてさ。たぶんこの外見のせいというか、おかげなんだろうけど。そういうことされるたびにいつも、俺にそれだけの価値があるのかって思う」
「…花月くん、」
「だって、何もしてないから。俺はいつもただ立ってるだけ。それなのに全部が勝手に好転していく。人間関係も、何もかも。周りの皆がそうする。俺にはそうする価値があるって思って、尽くしたその見返りを期待をしてる。…俺をきっかけにして、女の子と仲良くなったりとか。でも俺は、俺自身は別に、特別性格がいいってわけでも、頭がいいわけでもない。当然なんでもできるわけじゃないし、科学は平均点だけど日本史は上位で、ナスは嫌いだから食べない」
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