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たぶん、独り言に近い。花月は別に、古池だからこの話をしているんじゃない。きっと、誰でも良かった。いま言葉にしているのは、彼の中にはずっと蓄積していたことで、ずっと吐き出されるタイミングを待っていた考えたちだ。だから、明確な答えは求められていない。花月は古池からなにか言葉を引き出そうとしているわけじゃなく、ただ聞き流してほしくて、この話を始めている。
それでも、そうだとは、わかっていても。
「だからお前も、もし俺に何かを期待してるなら」
「ナスは」
「…うん?」
「ナスは、とりあえずごま油を加えておけば震えるほどおいしいよ」
花月が流暢な日本語を操る猫を見るような目で古池を見る。一瞬ひるんだけれど、古池は止まらない。
「僕は、焼きそばが好きな花月くんも、ナスが嫌いな花月くんもかわいいと思う」
「かわいい…?」
「僕はまだぜんぜん花月くんのこと知らないけど、花月くんともっと話したいし、一緒にいたいって思ってる。だって、花月くんは優しい。一度も話したことない僕が、ほとんど瀕死って感じで話しかけてきても、それを邪険にしなかった。名前だって覚えていてくれたし、呼んでくれた。今日も声をかけてくれて、人の目が苦手なことだって、気がついてくれた。そういうのはもしかしたら花月くんにとっては当たり前で、何もしてないのと同じことなのかもしれない。でも、僕は嬉しかった。カレンダーに書き込んじゃおうって考えるくらい、花月くんが僕に気を配ってくれたのが嬉しくて、だからもっと花月くんと仲良くなりたいって思った。…人から寄せられる期待を意識して、それに対してなにかしなきゃって思うのも、花月くんが優しいからだよ。花月くんに価値があるとかないとか、そういうのは僕が一方的に決めていい話じゃないと思う。けど、それでも僕にとって花月くんは、ちょっと言葉にはできないくらい特別で──」
はっとして言葉を止めると、案の定花月がぽかんと口を開けて古池をみていた。それはそうだ。いままで普通に話すのだって一大事って感じで、どもり散らかしていたやつが急にこんな、流暢で知ったような口を。墓穴だ。地球の裏側まで到達しそうな墓穴だ。それを意気揚々と掘り進んでしまった。
「あ、ご、ごめん。へんなこと、いって」
「……カレンダー」
「え」
「なんて書き込んだの」
「………」
「教えて」
「…………花月くんと話せた、とか」
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