花月くんにころされる

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「昨日じゃん。しかもとか、ってことは一つじゃないんだ」 「あの……ほんとうにごめんなさい……」 「なんで?」 「なんというか………気味が悪くて……」 「そう? 俺はそんな風に思わない」 「うえ」 「敬語になったり変に緊張したりしないで、さっきみたいに自然に話して、これからも。古池とはそうやって話したい」  口角はかすかに持ち上がって、目は細められて。ちらり、と伺い見た花月の顔は、たしかにほほえみの形をしていた。はじめてみたかもしれない、花月くんが笑ったところ。 「……やっぱり、緊張してるの、ばれてた?」 「隠してるつもりだったんだ」  ふわ、となにかが香った。なんだろうこれ、覚えがある。ああそうだ、さっきこのベンチに座ったときに──。 「ひっ、」  そんな短い悲鳴を上げるだけに留めたことを褒めてほしい。古池は口元を手の甲で覆い、信じられないような気持ちで自分の右腕を見る。花月が、花月楓が、触れている。ブレザー越しの、自分の腕に。 「いまもすごく、力はいってる」 「あの、え?」 「肩も竦んでるし」 「は、はなつき、くん」 「なんか、顔も赤くて」  あ、だめ、これはもう心臓が死ぬ。たぶんここで一生分の脈を打って動かなくなる。花月の手は古池の右腕をたどり、徐々に上へのぼってくる。ここまでくるともう、逆に殺そうとしている? 花月くんが僕をドキドキで死亡させようとしている? この場合の死因ってなんだ? ドキ死?  五本の指はしっかりと古池の身体をなぞって、手首や肘の関節、鎖骨の隆起まで、全部が暴かれているようだ。もはや何も言えなくなった古池の頬に、花月の大きな手がひたりと添えられる。それから彼が背中を丸め、お互いの顔がぐっと、睫毛の震えまで確認できてしまいそうな距離まで近づく。それがたぶん、とどめだった。 「目が、逃げたいって言ってる」  手が冷たい人って、心が温かいんだって。そんなの信じてなかったけど多分、花月くんの手が冷たいから本当だと思う。  花月の顔は至って真剣だった。真剣にこの事態を引き起こしていた。だから余計に命の危機だった。 「………はなつきくん」 「なに」 「…僭越ながら、もう少し手加減をしていただけると……」 「手加減?」 「このままだと、心臓が跡形もなく消滅する」 「すげえ重症じゃん」
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