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撫でるような滑らかさで、花月の手のひらがようやく、古池から離れていく。名残惜しさよりも、なんとか延命したという安堵が勝った。だってあのまま触れ合っていたら、確実にどこか、身体の機能が壊れていた。その前に開放されたから、なんとか致命傷で済んだようだけど。
「花月くんは、僕の寿命をどうしたいの…」
「どうもしないけど……」
「もう本当にしんじゃうかと思った……」
「…俺、別に性格良いわけじゃないし、かと言って特別悪いわけでもないかと思ってたんだけど」
「うん…?」
「古池を見てると、しにそうな顔をさせるっていうのはわかってても…なんかすこし、いじわるしたくなる」
「……えっ」
「なんていうか」
心を落ち着かせるために、うつむいた頭を、ぐしゃぐしゃとかき混ぜられる。触れられたのは一瞬で、なのに温度はいつまでも残っているような気がした。いま、頭をなで、て。恐る恐る顔を上げると、花月は渡れない信号機みたいに赤くなった古池を、おもしろそうに見下ろしている。
「慣れてよ、ぜんぶ。俺にころされちゃう前に」
その表情は、余裕に満ちていて。いまもバクバクと通常の五倍くらいのスピードで心臓を動かしている古池とは、比べ物にならない。まずい。彼はまだまだ本気を出していない。これでは、このままではいつか、花月くんにころされる。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。忙しく変化を始める周囲に逆らって、古池はしばらく、目の前の存在に囚われ続けていた。
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