花月くんにとかされる

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「ごめんなさい、を二十個くらい書こう」 「そんなことしたら課題の量が倍になっちゃうよ」 「そうしたら今度は四十個書けばいい」 「喧嘩になっちゃう…」 「たしかに、喧嘩だな」  言いながら古池の席の近くまでくると、兵藤は前の席の椅子に手をかけた。  別に、変わった動作じゃない。おそらく兵藤は、少し古池と話がしたくて。それで立ちっぱなしも嫌だから、適当に近くの誰かの席を借りようとしているだけだ。他のクラスメイトだってよくやっているし、古池がお昼から戻ってくると、違うクラスの生徒が自分の席を借りて、隣の席の女の子と話していることだってある。だから何も、咎めるべき行動じゃないし、嫌だと思ったわけでもなかった。ただすこし、あっ、と思っただけ。それでもそのときの些細な心の揺れが、兵藤には伝わったというか、ばれてしまったようで。 「花月だろ」 「えっ」 「前の席は花月が良いんだもんな」  にや、とからかうような笑みを見せたあと、兵藤は椅子から手を離し、結局そこへは座らずに、古池の隣の席へ腰を下ろす。このまえ相談したときは知らない人の夕飯の献立を聞くようなテンションだったのに、この話題はこういう風に使えると判断したのか、夢乃は途端におもちゃを見つけた子供のような心象になったようだ。 「夢乃……」 「睨んでも怖くない」 「……なんか、顔に出てた?」 「私が勝手に察した。それで、友達にはなれたのか」  沈黙はそのまま、否定の意味である。古池が無言でかちかちとシャーペンの芯を長くすると、兵藤がふう、と息を吐いた。…呆れているのだろうか。  クラスメイトには、なれた。たぶんきっとそう。前はどうだったか怪しいけれど、いまの関係なら学校外で会っても、花月とは普通に挨拶ができる。それが古池の基準だ。じゃあ友達って? なにをどうしたら友達になれるんだ? 好きな食べ物を教え合うとか? 花月はナスが嫌いだけど、それを知っているだけではさすがになんとも…。だめだ。わからなくなってきた。混乱する頭が頼るのは、やっぱり唯一の友達で。  古池の視線に気がついた兵藤が、どうした、と首を傾げる。 「夢乃とは、どうやって友達になったんだっけ」 「覚えてないなら話してもいいが、羞恥心で死ぬことになるぞ」 「えっ、だれが?」 「陽冬が」
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