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昼休みの中庭。購買で売っている商品の中で一番安いパンを握りしめながら願望を口にすると、中学からの知り合いで、唯一胸をはって友人と呼べる男子生徒、兵藤夢乃は、隣の惑星の天気を聞かされているときのような目で古池を見た。多分本当に、一ミリも興味がないんだと思う。中庭はお昼ごはんを食べる場所としてすごく人気があるけれど、兵藤も古池も人の目があまり好きではないので、二人でこうしてご飯を食べるときは、わざわざ隅っこの方にある朽ち果てそうなベンチを選んで座っている。今日もそうだ。喧騒は少し遠く、自分たちの周りには手入れのされていない花壇と、枯れかけの植木しかない。
「友だちになりたいなら、さっさとなったらいい」
ふんわりと巻かれた毛先を指にくるくる巻きつけるほどに興味がなくたって、それでも無視をせずに返事をくれるから、兵藤とはいまでも関係が続いているのだろう。古池は兵藤の優しさに心のなかで感謝した。
「花月は前の席なんだろ。軽率に話しかけろ」
「そんな簡単に言わないで……」
「簡単なことだから簡単そうに言ってる」
「だって話しかけるってことは、こっちを振り向いてもらうってことだよ? 振り向いてもらうってことは肩を叩かなきゃいけないってことで、肩を叩かなきゃいけないってことはし、花月くんにさ、さわ、さわって」
「陽冬…すごく不気味だ」
自覚はあったので反論はしなかった。想像しただけで赤くなってしまった頬に手を当てながら、古池はうう、と情けない声を漏らす。
「花月くんの家族が羨ましい……家に帰ったら花月くんがいる生活……朝起きたらリビングに花月くんがいる生活……花月くんにおはようって言える生活……だ、だめだ。それは心臓がもたない。僕だったら倒れる。毎朝救急車呼ぶことになる」
「迷惑な話だな」
「なんて話しかけたらいいんだろう。いきなり友だちになってくださいって言うのは、やっぱり変かな」
「さあ。個人差があるんじゃないか」
「夢乃だったらどうする?」
「どうもしない。同じクラスでもないし、接点がないから、花月にそこまで興味がない」
「同じクラスだったら、だよ」
「友だちになりたいのは陽冬なんだから、私の意見を聞いたって仕方がないだろ」
「僕のクラスの女の子は、いつも花月くんのこと話してるよ。かっこいいねって」
「そうか」
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