花月くんにとかされる

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 また校庭から歓声が聞こえた。今度はサッカー部あたりがゴールでもきめたんだろう。練習でも一生懸命なのはとても素晴らしいことです。花丸。いやちがう。そうじゃない。衝撃的すぎて思考が一瞬で銀河の彼方へ飛ばされた。いま、え? 花、え? 「え……?」 「一人じゃないほうが楽しいって言うから」  誘われてるのかと思ったんだけど。  気まずそうに視線を彷徨わせながら、花月はすこしだけ拗ねているようだった。教室の窓から差し込む茜色が、彼の存在を透かす。自分が中世の画家だったら、この景色をテーマに生涯絵を描き続けただろう。むかしに教科書で読んだような画家の半生を脳内でなぞって、生まれ変わる予定もないのに、古池はそんな事を考えていた。  一緒に。花月くんと。駅。それってつまり、あの。 「僕と一緒に、でかけてくれるってこと……?」 「ちがった?」 「あ……あの……」 「顔色すごいよ。爆発しそう」 「時間の問題かも……」 「なにそれ」 「……はなつきくん」 「うん」 「いまのことば、なんですけど」 「うん」 「ちがくない、って、いってもいい…?」  それはもうまったく、偶然の産物だけれど。花月に駅前は誰かと行ったほうが楽しいといったのは、紛れもなく善意からだ。けっして邪な気持ちが混ざっていたわけではない。ないのだけれど、花月がそう思ってくれたのだから、この際不純にでも何にでもなる。むしろ不純でいい。それで花月と一緒に出かけられるなら。意を決したような古池の表情を見て、花月はすこし目元を緩める。 「緊張するとやっぱり敬語になる」 「う、」 「いいよ。ちがくない、ね」  幸せすぎていつかとんでもないバチが当たるんじゃないだろうか。そうなっても文句が言えない。だって、花月と遊べる。花月と。この前までは話すことさえ到底不可能に思えて、名前を呼ばれる妄想だけでお腹いっぱいになっていた、あの花月と。 「泣きそう…」 「なんで?」 「しあわせで……い、いつにしようか。金曜日の放課後、とか?」 「土日のどっちか」 「えっ!?」 「そんな驚くこと?」 「い、いいんですか……花月くんのお休みを…いただいてしまって……」
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