花月くんにとかされる

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 恐る恐るたずねると、花月は一瞬あっけにとられたような表情を見せた後、とうとう小さく吹き出した。おもしろがっているというよりは、なんだろう。困った子供を見つめるような目だ。いたずらさえも、仕方がないとたしなめるときのような。 「俺同い年なんだけど。恭しすぎ」 「ごめんなさい……」 「責めてないよ。いつがいい?」 「…ら、来週、とか?」 「うん、わかった」  約束をしている。いま花月くんと、遊びの約束を。現実だろうか。おもいきり頬を叩いたら目が覚めるなんてことはないだろうか。やってみてもいいけど、もしも現実だったら目の前にいる花月にドン引きされてしまいそうだからやらない。夢の中でも花月に引かれるならやらない。 「古池、携帯持ってる?」 「あ…、ごめんぼく持ってない…」 「そう。お前の家、このあたりなんだっけ」 「う、うん」 「じゃあ迎えに行く。場所教えて」 「えぅ」 「連絡手段ないなら、駅前の人混みで待ち合わせするより、そっちのほうが確実に会える」  いやその通りではあるんだけど、なんというか、もろもろ受け入れる体制ができていないというか。え? うちにくるの? この存在が? 花月楓が? 「け、けいたい」 「うん」 「持ってないって言うと、いつもすごく驚かれる、のに」 「うん」 「花月くんは、驚かないね」 「驚いてほしかった?」 「え、い、いや」 「たしかに少数派だろうけど、そんなのでどうこう思ったりはしないよ」  苦し紛れに繰り出した話題までまきとられて、いよいよ息ができない。片手で顔を覆って、せめて視界から入ってくる情報量を減らす。いやもう無理。オーバーヒートする。スペックの低いパソコンに無理のある作業をさせているときみたいな音が、耳の裏辺りから聞こえてくるような気さえする。キーンとか、バビビビ、とか。  そんな意図はないだろうに、あさましくも、勝手に受け入れられた気になった。花月は、花月楓という存在は、その外見だけでなく、見た目や言葉でも古池の心臓を絡め取って、離さない。 「とりあえず、早くそれ書いて。続きは帰りながら話そう」 「……もうすこしかかる」 「なんで。要約したらごめんなさいって意味になる文を書いたらいい」 「……いまは花月くんのことしか考えられない」 「は?」 「何を思い浮かべても、花月くんのことばかり考えちゃうから。落ち着くまでちょっと、待って」
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