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「じゃあさ。もっと変なこと、してみても良い?」
「…うん?」
その言葉自体がもうだいぶ変というか、意味がちょっとよく、え?
脳内を疑問符まみれにしていたのは数秒の間だけだった。花月の瞳が一瞬妖しい光を宿して、それに見惚れる暇もなく、シャーペンを握っていた拳へ、自分のものではない温度が触れる。
「はな、えっ…?」
「古池の手って、器用そう」
「あの、これはなにが始まろうとして」
「絵を描くのとか、工作とか得意そうだし。だから美術選んだの?」
「…う、」
手首から手の甲をなぞった後、閉じていた指と指の隙間に花月のそれがするりと入り込んできて、拳をゆるく解かれる。からり、と支えをうしなったシャーペンが机の上を転がったけれど、そんなことは気にしている余裕がなかった。絡め合うように交差して、もうどちらのものかぱっと見ただけではわからなくなった指にはぐ、と力が込められて、意図的な強弱とともにすべてが手の内へ収められる。
たぶん、心臓は体中にあった。そうでなければ、この鼓動の喧しさに説明がつかなかった。
「て、てかげん、して」
「ごめんね。俺って変だから」
たぶんこれは、さっきちょっとからかった仕返しだろう。わかっていても、花月の指が関節を辿るたび、身体が小さく跳ねるのを抑えられない。悲鳴の上がりそうになる口を抑えていると、花月が喉を鳴らした。
しばらくそうやって弄ぶと、やがて花月はそのまま古池の手を取って、その甲を優しく握りながら、今度は手のひらを自分自身の頬にぺたりと添えさせた。いつも眺めていた髪が、さらさらと流れていく。触れて、いる。自分の意志ではないけれど、たしかにこの手が、花月の頬へ。
「触られるだけじゃなくて、俺に触るのもだめなんだ?」
そしてその内で、花月が笑っている。いよいよ今日が寿命だ。完全にキャパシティを越えた。無理です。僕の臓器はたぶんこの現実に耐えきれるようなたくましさは兼ね備えていません。
「古池」
「…泣きそう……」
「古池、俺かわいくないよ」
「……それの仕返し?」
「半分くらいはそう」
「じゃあ残りは…?」
「……なんだろう?」
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