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公園を出ると、あとはひたすら歩道を歩く。駅まではほとんど一直線だから、迷うような道ではない。古池はそう思うけど、この地域に馴染みがない花月は違うのかもしれない。
「ここまで来てくれてありがとう。遠かったよね」
「学校行くのと同じ感じだし、そこまででもない」
「そういえば、朝ごはんは食べてきた?」
「うん。お前は?」
「僕は……その…」
緊張してなにも喉を通らなかったなんて言えない。言えないのだが、急に歯切れの悪くなった古池を見て、花月は何かを察したらしかった。
「駅ついたら何か食べよう」
「い、いや、大丈夫だよ。気持ちでお腹いっぱいだし、」
「古池って朝ごはんいつも食べないタイプなの」
「き、気分により…お腹は本当に大丈夫! それに、今日は僕が花月くんをこう、率先したいというか……いろいろ案内したいから!」
「へえ。じゃあ今日のデートは古池に任せようかな」
「デッ…」
物は言いようだと本当に思う。別にそれ自体は変な言葉ではないのだけど、花月が言うとなんか、特別味を帯びてしまうというか。いきなり男の友達同士では使わない言葉を出されると心臓に悪いと言うか。露骨に慌てていると、花月がくつくつ喉を鳴らす。
「古池くんのエスコート、楽しみだな」
「……もしかしてわざと」
「気持ちがそのまま顔に出るから、つい」
「いじわるだ…」
「お前はほんと、いつまでも俺に慣れないね」
言いながら、花月は古池の顔をじっと見る。それもいじわるの一環だろうか、と警戒するけど、花月は不思議そうな顔をするだけだった。慣れるって、花月くんに? その言動に? ……想像できない。いつまでも顔を合わせるたびにどきどきして、隣を平気です何も感じてませんって顔して歩くことだって最近ようやく会得した技なのに、平常心を保ち続けるなんて無理だ。年単位で時間をもらいたい。花月の存在は、その大きさは、古池の中で日々更新され続けている。
「そろそろ慣れてもよさそうだけど」
「花月くんの存在は産地直送だから…」
「…どういう意味?」
「も、もうすぐ駅だよ」
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