花月くんにほめられる

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 学校へ来るためここを利用している花月にとってもきっと見慣れたものである景色が近づいてきて、比例するように喧騒と人通りが増してくる。土曜の午前中だから、駅前は待ち合わせの人々で混雑していた。ここで連絡手段もなく合流するのは、たしかに難解だっただろう。提案を受けた特は心臓が潰れたけど、花月には感謝しかない。 「土曜にここいるの、なんか変な感じ」 「休みの日にくるのはじめて?」 「はじめて。お前が言ってた映画館ってどこにあるの」 「あ、こっちだよ。ちょっと裏に入ったところ」 「行ってみたい」  となれば反抗する理由なんてない。古池がこっち、と道を示せば、花月は黙ってそれに続く。場所を知っているのが古池だから当然のことなのだけど、花月に頼られている気がしてやっぱり嬉しかった。初めて話した日にも同じ気持ちになったことは、いまでもはっきり思い出せる。花月に関することは何だって忘れない。 「すげえ」  だからこの顔だってずっと覚えているだろう。  映画館をみた花月の、一番最初の言葉がそれだった。その表情はどこかきらきらしていて、建物の掲示板にはってあるポスターを興味深そうに見ている。この景色をどうにか記憶以外の媒体に保存できないだろうか。やっぱり身体をロボ的なやつに改造するしかないのだろうか。 「ミニシアターっていうんだっけ。俺、こういう映画館はじめてみた」 「たしかに他の駅ではあんまり見かけないかも」 「古池はここでどういうの見るの」 「昔みたことがあるやつとかかなあ…大きな映画館でやってないようなタイトルも気になるけど、いつも挑戦する勇気がなくて」 「たしかに。ちょっと勇気いるね」  いいながら、花月はいまだ映画館の外装に心を囚われているようだ。はじめてみたと言っていたし、きっと彼にとっては珍しいものなんだろう。古池はこの町で育ったから、逆にここ以外の映画館に新鮮味を感じてしまうだろうけど。 「せっかくだし何か見ようか」 「うん、みたい。ていうか中はいりたい」 「花月くん、こういうところ好きなの?」 「うん、すき」  膝から崩れ落ちそうになった。すきって、何その幼い発音。かわいい。  花月は屈託なくそう言うと、隣でいきなり体勢を崩した古池を不思議そうに見る。 「どうしたの」 「勝手にダメージ受けてるだけだから気にしないで……」 「そう?」 「い、いまからだと、この二つかな」
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