花月くんにほめられる

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 古池は掲示板のポスターを指差す。その下にぺたりと貼られた上映時間は、どちらも今から数時間後だったが、それでも他のものよりは近い方だった。映画の内容をそのビジュアルだけで推測するなら、片方が大きな怪物と戦う感じのやつで、片方が…こっちも大きな怪獣と戦う感じのやつだろう。勇ましい顔をして武器を構えた、二人の主人公らしき男たちを見比べながら、体勢を立て直した古池は横にいる花月をみる。 「花月くんはどっちがいい?」 「お前が見たい方が見たい」 「えっ」 「どっちがいいの」 「え、えっと……僕も、花月くんが見たい方が……見たくて…」 「じゃあせーので指さして決めよう」 「えっ」 「いくよ」  せーの、と花月が言った。咄嗟のことだったので指が三本くらい出たが、古池と花月は同時に同じ方向を指していて、それにすこし安心する。よかった、平和だ。 「気が合う」 「こっちの方がなんか、派手そうだったから」 「うん、俺もそう。券ってどこで買うの」 「中入ってすぐの窓口だよ。近くだし、僕が…」  買ってこようか。そう言いかけて──花月の様子を見て思い直す。そうだ、中が見たいと言っていた。だからいまきっと彼は、この建物に入りたくて仕方がないんだろう。直接それを口に出されたわけではないけど、十分に察することができて、古池は小さく笑う。 「やっぱり、一緒に行こうか」 「…なんで笑ったの」 「だって花月くん、顔に出てたよ。中がどんな風になってるか、気になって仕方がないって感じ」  指摘をすると、花月はぺたり、と自分の頬に手を当てた。まったくの無意識だったようだ。かわいいが過ぎて、今の言動で救える心がここにひとつある。  気持ちがそのまま顔に出る、か。 「今朝の花月くんの気持ち、少しわかった気がする」 「……仕返しする?」 「僕はいじわるしないよ」  むっとした表情の花月もきっと貴重だった。やっぱり目とか機械に改造して、ブルーレイに映像書き込める様にしようかな。
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