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映画までの時間は、花月の希望もあって、街を探検しながら潰すことにした。いままでこの街に生まれたことへ特に深い感慨なんで抱いてなかったけれど、花月をこうして案内することが出来るのなら、瞬間そのすべてに価値が生まれたような気さえする。古本ばかりが並ぶ本屋で分厚い図鑑の背表紙を見ながら、あの映画館を見たときのようにきらきらとした表情を見せる花月をみて、古池はこころが満たされていくような気持ちを感じていた。こういうの好きなの、なんか意外だ。ていうか知ってるの、僕だけなんじゃないだろうか。…そうだったら、嬉しいな。
「ねえあの人」
「うん、すごくかっこいいね…!」
……駅へ着いて人の目が増えてから、薄々感じていたことではあるけれど。
本屋の次にいったゲームセンターで手に入れた、猫のゆるい顔に手足が生えているようなマスコットのキーホルダーを手の内でころころ転がしながら、花月はぼんやりと窓の外を眺めている。向かいに座る古池の鞄の中にも同じようなマスコットがしまわれていて、これは先程花月が「二個取れたからあげる」と手渡してきたものだった。早急にこれを飾るための神棚を作らなければならない。ホームセンターで木材を手に入れるところから始める。
お昼の時間が近いから、休憩も兼ねて入った喫茶店の中はほどほどに混雑していた。注文した品物が全部届くまでの間、交わしていた雑談が何となく途切れると、周りの声が耳に入ってくる。
…見られている。自分ではなく、花月が。
たぶん世間がようやくその美しさに気が付き始めたのだろう。なんて尊大なことは思わない。だって花月は学校でも注目を集める存在だ。街へ出て、いろいろな憚りがなくなればなおさらだろう。近くの席の女の子が、時折こちらへ視線を向けながら、何やら楽しそうにしている。
「古池」
「は、はい」
「どうしたの、きょろきょろして」
「あ…、お、おしゃれなお店だなあって」
「…そう?」
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