花月くんにころされる

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 学年が変わって新しいクラスになって、古池が花月の後頭部を見つめ続けてから、二週間が経とうとしている。花月の後ろ姿についてだけなら誰より詳しいという自信があるが、本人と話したことはなんと一度もない。前後の席なら多少会話が生まれても良さそうだけど、気持ち良いくらい何もない。心のなかでは毎日呼んでいる名前さえも、本人に向けて直接言ったことはなかった。つまりは白紙だ。古池と花月の関係はただのクラスメイトで、それ以上でも以下でもない。…でもそのほうが、気楽でいいのかもしれない。後ろ姿を見ているだけでもドキドキしているのに、正面から向かい合って話なんてできるだろうか。変なこと言っちゃって嫌われたりしたら、なんて考えるだけで胸が締め付けられるような気分になる。ていうか、花月くんって僕のこと知ってる? 知らなかったら知らなかったでいいんだけど、もしも認知してくれていたらすごくうれし、ああでも転校生だし他に覚えることたくさんあるだろうし、僕のために頭の容量使ってもらうのもなんか申し訳ない気が。 「陽冬」 「はい」 「具体的なことはなにもアドバイスできない。でもきっと、友達になるきっかけなんてどこにでも転がってる。陽冬は勇気さえ持ってればいい」 「勇気?」 「そう。先へ進むための勇気だよ。あの日、私に話しかけてくれたような」  具体的なことは言えないという前置きの通り、兵藤の言った言葉はすこし曖昧で、古池にはたぶん、正しく理解ができなかった。それでも「花月くんと友だちになりたい」という古池の相談を、兵藤なりに考えてくれた末での意見だというのは感じることはできる。  お礼を言うと、兵藤は最初にここへ来たときと変わらない表情だったが、それでも少しだけ、古池のことを応援してくれているように見えた。 「ところで陽冬、パン食べないのか。昼休み終わるぞ」 「あっ」
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