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「それにさ、言ったでしょ。なんとも思ってないやつと、休みの日に二人では遊ばない」
いみ、わかる? 花月が伺うように顔を覗き込んでいる。古池はというと──理解が追いつかない。
だって、このタイミングでそんなこと言ったら。
花月の口が、予測できる言葉を紡ごうとして、薄く開かれる。涙なんかはもうとっくに引っ込んでしまっていて、古池は硬直した身体を叱責すると、慌ててそれを静止した。
「まっ、て。はなつきくん」
「…なに」
「その先は、言わないで」
「なんで?」
「だって、僕はそうだけど、花月くんはそうじゃないでしょう…?」
この場合の"そう"が何を指しているのかは、言葉にせずともお互いがよく分かっていた。花月がぐ、と顔をしかめるけれど、古池は口を閉じない。
「だからもし、僕の過剰な反応のせいで、花月くんがなにか勘違いをしてしまったんだとしたら、謝りたい」
「勘違いじゃない」
「そんなの、」
「俺はさっき、はっきりと意識して嫉妬したよ。お前が大家に触られて、顔赤くしてんの見て」
あそこまで強い声が出るとは思ってなかったけど。付け足しながら、花月はどこか拗ねたように目を細める。
「俺は古池にしか変にならないのに、お前は誰でもいいのかって考えると悲しくなった。今日みたいに、古池が俺以外のやつにちょっかいかけられて、しにそうになってるのを見んのはいやだ。どうせころされるなら俺にして」
「だ、だれでもいい、なんて」
「よくないの?」
たぶん墓穴だった。いまから自分が横たわる穴を自らせっせと深くしてしまった。露骨に失敗した、という顔をする古池を見て、花月はすこしだけ顔色を良くする。
──だってこんな、ありえない。
信じられない現実の連続を夢と呼ぶなら、今朝からずっと思っている通り、この世界は正しく夢だ。そんな、都合の良いことが起きるわけがない。これほどまでに限られた世界の中で、自分の好きな人が、自分の事を好きと思ってくれているなんて。
顔が見れない。また泣きそうになって俯くと、その頭上から声がかかる。
「古池」
「……」
「古池、こっちみて」
「……う、」
「俺だけって言ってよ、古池」
……いいんだろうか、この手をとっても。
彼の手をとって、握って、僕のところへ引きずり込んでも。
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