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胸を張って好きと言うには、まだ時間が足りない二人だった。依然として黙ったまま、それでも顔はしにそうなくらいに赤くなっている古池を見て、花月は小さく頷く。
「…よし、わかった」
「……え、?」
「古池、俺と恋愛をしよう」
おそるおそる、顔を上げる。花月は大真面目だった。たぶん微塵もふざけているつもりはなく、真剣にこの話をしていた。
「一気に進めようとするからいけないんだ。うん、今は友達で良い。思えば、俺たちの関係は全部、古池が勇気を出して声をかけてくれたところから始まってる。だから、ここから先は俺ががんばる番」
がんばるばん、とは…? 与えられた言葉をそのまま口内で反芻していると、花月が自身の唇に手を当てながら、続きの言葉を紡いでいく。
「そうとかそうじゃないとか、勘違いとか。古池がそんなこと気にしてられなくなるくらい、俺のことが好きだって言わなきゃ気がすまなくなるくらい、俺にもっと夢中にさせる。つまり──ぜったい、オトす」
「…ひえ、」
「さっき、気がついたんだけど」
高らかに宣言する花月は、やはり美しかった。決意を秘めた人間は、どんなときだってひときわ輝いて見える。それが自分の好きな人であればなおさらだ。
もう心臓の位置なんてわからない。全身が熱くて、目の前の言葉を、この夢なんかじゃない現実を受け入れようと必死だった。
ああ。だめだ。どれだけ抗っても、一緒にいることが彼のためにはならないと考えてしまっても。彼から”普通”を取り上げることへの罪悪感が、心へ絡みついていたって。
彼はきっと、本気だ。ずっとずっとそうだ。だからこのままでは、確実に。
薄い唇がしなって弧を描く。古池はいつかみたいに、その存在に心を囚われて、身じろぎすらできない。蛇に睨まれた蛙。いや、この場合はもっと別の言葉がある。
「俺けっこう嫉妬とかするし、やっぱりあんま性格良くないみたいだからさ。──これから覚悟してね、古池」
花月くんに、おとされる。
──なんて、きっともうとっくに、陥落しているけれど。
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