古池くんは絶体絶命

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 そこで勝負をする必要はあるんですか…? 思ったけれど口にはしなかった。というか、その余裕がなかった。頬を軽く叩いて気合を入れると、少し前で自分を待っている花月の横へ並んで歩く。  恋愛をしよう、ということになって。  そうは言っても、古池にはいままで誰かとこんな風になった経験がない。だから具体的にどういうことをするのか見当がつかなくて、おそるおそる「これから僕たちはどうなるんでしょうか…?」と聞いてみたところ「そんな怯えなくても、捕まえて食べたりしないよ」となんだか怪我をした草食動物を手当するような物言いでなだめられた。 「古池はさ、たぶん不安なんだろ」 「不安…?」 「そう。たとえばいま、俺たちがお互いに抱いてる好きって気持ちが、同じ種類なのか、とか」  心の中身をそのまま読み上げられたのかと思った。いつもとは違う意味で心臓がどきりと跳ねる。  例えるなら、好きな食べ物は? と聞かれたとき。ハンバーグとは答えるけれど、だからってハンバーグと付き合いたいとは思わない、みたいな話だ。古池が花月に抱いているのは、恋とか愛とかそういう類から派生するものだが、花月はわからない。もしかしたら彼自身、自分ではそうだと思いこんでいるだけで、本当はハンバーグへ向けるような好きなのかもしれない。だって彼は……やっぱり、普通の人だろうから。そのあたりが曖昧なまま付き合えば、きっとお互いに深く傷つくことになる。好きな人が自分のことを好きだと言ってくれている、なんてまさしく夢みたいな現実に、古池が手放しで喜べない理由がそこにあった。 「でもそういうのって、言葉にするだけじゃ伝わらないと思うから。だから、古池が胸を張って俺のことが好きって言えるように、時間がかかっても俺の気持ちをちゃんと理解してもらいたい。……いろいろいったけど、つまりはまあ、もっと仲良くなろうってこと」
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