古池くんは絶体絶命

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 という話があって、古池の家には毎朝花月が迎えに来るようになった。教室では誰にもちょっかいを出されずに話すのが難しいから、朝の登校時間くらいは二人でいたい、ということらしい。そんな心配をしなくても、自分には友達がいないから、ちょっかいをかけてくる人なんていないと思うけど……。なんていう古池の予想は大外れだった。たしかに自分はそうかも知れないが、相手はあの花月だ。むしろ古池というクッションが挟まることにより、前よりも話しかけやすくなった花月に「二人って仲良いの?」「なんか意外な組み合わせだね。趣味が一緒とか?」「あ。花月くんがかばんに付けてるキーホルダー、かわいいね」なんて言葉で近づいてくる同級生が、以前より増えた気さえする。  なので現状、花月と古池が二人だけの秘密を共有できる場は、この朝の登校時間だけとなっている。花月という存在に、彼がもたらす影響に慣れたわけでは決してないけれど、そもそも二人だけの時間があまりないから、しにそうになる機会は前よりは少なくなった、気がする。 「そういえば、」  思い出したように、隣を歩く花月が声を上げた。 「俺のこと、名前で呼んでみない?」 「……」 「…あ。想像しただけで赤くなってる?」  前言撤回、今まさにしにそうです。 「あ、あんまり、人を名前で呼んだことが、ないから」 「あの子のことは呼んでるじゃん」 「夢乃はともだちで、」 「俺は友だちじゃないの?」 「うっ……」  花月がかまってもらえない犬のような、同情を誘うような目で顔を覗き込んでくる。ここまでの破壊力を伴っているともう武器だ。彼は有事の際に武器になる。 「花月くんは、友だちとは少しちがう、といいますか」 「じゃあ古池のこと、名前で呼んでいい?」 「僕を…?」 「そう。はるとって」  突然姿勢を崩した古池を、花月が不思議そうに振り返る。 「どうしたの? 何かに躓いた?」 「強いて言うなら花月くんに…」 「俺?」 「い、いきなり呼び捨ては、レベルが高いです」 「そう? じゃあはるとくん」  花月が首を傾げながらしゃがむ。姿勢を崩すだけでは抑えきれず、地面にしゃがむ形になった古池と目線を合わせた美形は、やっぱり不思議そうな表情をしていた。 「どうしたの」 「くん付がダメージを増加させることもあるんだな、と…」 「ダメージって」 「ごめん…でも今の僕じゃ、心臓が持たないです…」 「お前ってなんか、いつも絶体絶命だね」
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