花月くんにころされる

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「お前たちは見たことないかもしれないけど、これはインスタントカメラだ。使い方は…まあいまの子は機械強いから、なんとなくわかるよな。今からチャイムが鳴るまでの三十分間、場所は学校の敷地内ならどこでもいいから、写真を好きなだけ撮って提出してくれ。現像できたら写真はあげるけど、先生が個人的に気に入ったやつは美術室の前に廊下に飾るからそのつもりで。説明終わり。はい、それじゃあ二人組作って」  情報が一気になだれ込んできた。どうやらこのお菓子の箱みたいなのに入っているのはカメラで、今からこれで好きな写真を撮ってくるというのが授業らしい。そういえばこんな感じのやつ、おじいちゃんが持ってたな。子供の頃は触らせてもらえなかったけど、きっといたずらにフィルムを消費されたくなかったんだろう。なるほどね、いやまて。それよりもっと大事なことがある。  二人組を作るって、? 「先生、二人組って誰とでもいいんですか?」  古池の疑問を、教室の後ろの方に座っていた生徒が代弁した。 「あー、いいよ。お互いを撮りあっちゃってもいい。相手の同意があればな」  教師の言葉に教室が少し湧く。写真を取り合うことと、好きな相手と組めること。同級生がどちらに喜んだのかはわからない。古池の思考は一つの言葉に囚われていた。誰とでも、いい。誰とでも。  悪いとわかっているテストの結果を見るような気持ちで向かい側の席へ視線を送ると、花月は手元のカメラをぼんやりした様子でいじくっていた。そのさらに向こうで、知らない男子生徒が隣の席の男子生徒に声をかけ、さっそく二人組を作っているのが見える。  心臓が早鐘を打つ。この状況は、花月くんへ合法的に…というか、ちゃんとした理由で話しかけることができる、最初で最後のチャンスかもしれない。きっかけはある。状況だって整っている。花月はいつだって注目の的なので、このままぼうっとしていたら、誰かが絶対に彼へ声をかけるだろう。  陽冬は勇気さえ持ってればいい。  昼休みに言われた言葉を思い出す。勇気さえ勇気さえ……。仮に今後、自分が勇気を振り絞ることによって何かが先に進むような場面が訪れるのだとしたら、それはいま、ここでしかない。 「っは、はなつき、くん」
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