3人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あの煙はハッカか!? き、貴様いつの間に」
「あれは本来ネズミに使用するものだが、どうやらお前にも効き目があるとはな。コウモリ野郎」
奴の生態がコウモリに似ていると仮説を立てたのは、奴と一度戦って得た情報がもとだった。
奴は当時、智人を奇襲して重傷を追わせたが、まだ明らかに息のある智人にトドメを刺さずに俺を狙い続けていた。
なぜ奴はあの時、智人の息の根をすぐに止めなかったのか?
その謎は、アイツから聞かされた身なりの話に答が隠されていた。
ハッカ油。
智人は洗濯の時、ハッカ油を柔軟剤投入口に数滴入れることを話していた。それだけでなく、シャンプーやボディーソープにもハッカ油を混ぜることで体臭対策をしていたことも耳にたこができるくらいに。
そこで俺は発煙筒で洞窟中を煙で充満させ、その間に銃で牽制しつつ、ハッカ成分の入ったくん煙剤を設置した。
発煙筒はくん煙剤を奴に悟られないよう、目くらましとしても活用させてもらったのだ。
くん煙剤から薬剤が蒸散し終えるまでに約10分。その時間をかせぐことができ、かつハッカが奴に効果があることを引き当てるまでにはかなりのハイリスクを持っていた。
けれど、これでようやく奴の動きを鈍らせることに成功した。後は、トドメを刺す……だけ。
「おのれ。ここは一度退散し、煙が晴れるのを待つしか」
ああ、クソ。俺は1発だけ残すように立ち回ってきたというのに、その1発を撃ち込めるだけの体力がない。
体が思うように、動けない。
「ほぅ。よくぞ、これほどの上位個体を1人で追い込んだものよ」
ドシュッ!
ドシュッ!
ドシュッ!
メフィスの脳天と胸部と腹に銃弾が1発ずつ入り、奴は地に伏せた。
俺は首だけを狙撃の主へと動かすと、そこには一カ月前に遭遇し、そして二度と遭遇したくなかった相手がいた。
けれど、メフィスが倒れゆく様を目にした俺は心の片隅で安心感を覚え、そのまま意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!