三月と紫煙(さんがつとしえん)

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 ヨシローの家で楽しく(?)春休みを過ごした三月(みつき)だったが、新学期が始まってもまだ屋敷にいた。  学区は違うが、中学は深川の屋敷から自転車で通えなくもない距離。三月(みつき)は3月末には、ここから通うことを決めていた。  そして本日は登校日。  公道で自転車にまたがった三月がふと振り返ると、門からチラッと銀髪がはみ出しているのが見えた。 「あれ、おにーちゃん? どしたの?」 「あー。三月に頼みたいことがあってなー」  ポケットに手を突っ込んだまま門の外まで出てくるヨシローは、どこかばつが悪そうである。 「帰りに、晩飯の買い物してきてくれない?」 「うん、いいよ」 「白菜と鶏もも肉、豆腐と」 「ちょっ、待って、メモ取るっ」  三月は慌てて前カゴに入れていた通学バッグから、メモできそうなノートを引っ張り出す。 「しめじ、長ネギ、ピース1カートン」 「しめじと長ネギと、ピース……えっ、タバコ?」 「じゃっ、よろしきゅー」 「よろしきゅじゃない! あたし未成年だよ!」 「いてー! ナイスコントロールっ!」  三月が投げたボールペンがヨシローの後頭部にヒット。涙目の銀髪だ。 「それに、おにーちゃん今日も家にいるよね? 暇だよね??」 「やぁだ! 俺、お外出たくないの。面倒くさいの!」 「だめ、運動しなさーいっ!!」  構ってられないとばかりにノートを乱暴に前カゴに突っ込み、三月は自転車を走らせた。  風になびくセーラー服を見送る彼のスウェットは、最近はきれいなグレーだ。
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