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三月と紫煙(さんがつとしえん)
細く、煙が立ちのぼる。
制服の背に漆黒の美しい髪を流した少女は、六畳の和室に正座し、冷ややかな瞳で壇上の写真を見つめていた。
屋敷に来たのは8か月ぶり。
部屋の様子は当時となにひとつ変わらず片付いていて、それが少女の顔を余計に歪ませる結果となった。
「――まだ若いのに」
「でも、優輝くんが生活費を出していたって。こう言ってはなんだけど、肩の荷が降りたんじゃない?」
手伝いに来てくれた近所の女性陣の会話が、隣の居間から少女の耳に届く。出てきた優輝という名は、少女の父親だ。
(そっか。最期までおにーちゃんは最低な人、だったんだね)
少女の中で渦巻く不揃いの感情は、一昨日亡くなり、灰となり、灰色の写真となった遺影へと向けられていた。
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