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時は2年前に戻り、3月半ばのこと。
薄いブルーのコートにエナメル素材の大きなスポーツバッグを担いだ深川三月は、眉間にしわを寄せて古屋敷の前に立っていた。
吐く息は白く、足を少し動かせば草に隠れていた霜がシャリっと音を立てる。
今朝はあまりにも寒かったため、タブレットで「春 いつから」と調べたら「3月から」と出てきてキレかけたが、神妙なのはまた別の理由によるものだ。
マフラーにすっぽりと顔を埋めて、霜を踏み潰していると、
「よう、三月か?」
かすかに漂ってくる煙を辿れば、銀髪を後ろでひとつに束ねた男がいた。
門からのそりと顔を出した彼は、薄汚れたグレーのスウェットの上下にベンサンを引っ掛けただけの身なりだが、精悍な顔つきのせいで妙にサマになっている。
不機嫌そうに小さく頷く三月へ、男は気さくに声をかけた。
「わはは、久しぶり〜」
「わははじゃないんですけど」
「小学生ぶりだから、3年ぶりか。大きくなったなァ」
距離感なく頭をわしわし撫でられた三月は、顔を真っ赤にして銀髪の手を払う。
「子ども扱いしないでっ。う、うちが養ってるニートのくせ!」
男は一瞬目を丸くしたが、萎縮するどころかゲラゲラと笑い始めた。
「そうねェ、ニートで脛かじりなだけじゃないぞ。ヤニカスでありギャンブルカスぞ〜」
「もういい、寒いから中入るねっ!」
ふんっと鼻を鳴らすと、少女は男を無視して門をくぐる。
その背中をニヤニヤと視線で追いながら、男は門にタバコを擦り付けて火を消した。
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