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居間をのぞいて三月は絶句した。
十畳一間はゴミやガラクタ、敷きっぱなしの布団で足の踏み場がないのだ。
そんな彼女の後ろから、呑気に頭をぽりぽりかきながら家主が登場する。
「いや〜、急に連絡きたからねえ。俺、掃除苦手だし、なかなか手が行き届かなくてェ。っておま、そんな目に涙溜めるほど!?」
「男臭い、最悪」
「それはシンプルにごめす!!」
男は転がるようにして部屋中の窓や掃き出しを全開にし、換気扇まで回した。
年頃の女子に臭いと言われて、男子的にも大ショックである。
「寒んみぃ〜! 俺、肉ないから寒いのキビシーんだよ〜。もういい?」
「窓開けて1分も経ってないじゃん! まったく、お母さんにここの家主を更生させろって言われて来たけど、おにーちゃんは怠惰すぎ! あたしが来たからにはビシバシ指導するからねっ!!」
ぷりぷり怒っている三月と、肩をすくめる家主・深川吉朗の両名は、以前から親交がある。
「まったく、ねーちゃん……美桜のヤロー、無責任に三月を寄越しやがって」
ヨシローは三月の母・美桜の親族だ。
仕事もせず自堕落に生きている彼は、親族たちから鼻つまみ者にされている。
そんな彼だが、唯一必要とされる場があった。
それが由緒ある古屋敷の管理である。
美桜の兄弟は、十三歳下の弟だけだ。
深川の屋敷は誰かが定期的にメンテナンスしなければならないが、田舎すぎて誰も住みたがらなかった。
そこで、自宅警備が得意なヨシローに白羽の矢が当たったというわけだ。
彼の生活費は、深川家の会社で社長をしている三月の父が振り込む報酬で賄っている。
住む場所も金もある。WIN-WINなお仕事だ。
「あたしだって、また、こんなとこに来るとか思ってなかったし」
そんな縁もあり、三月が小学生のときはよくこの家に預けられ、ヨシローと二人で過ごすことがあった。
三月が中学に上がって一人で留守番できるようになってからは預けられることはなくなっていたが――。
まさか彼女が中3を迎える年になってから、再来することになるとは思わなかった。
「まったく、おにーちゃんがしっかりしてないせいなんだからね!」
「おまえさあ、その呼び方はやめろ。他人から誤解を受けるだろ」
「いいじゃん、小学生のころからずっとこう呼んでたし」
「さっき子ども扱いするなって言ってませんでした?」
「じゃあ、ヨシロー」
「わー、年配者を敬う気持ちが皆無! もういいから先に荷物置いてこい」
居間のガラス戸を開けると、廊下と階段が現れた。
「2階の角部屋、おまえが使っていいから」
「ありがと! このあと、居間の片付けするからねっ!」
寒そうに体を丸める男に釘を刺し、三月はスポーツバッグを担いで階段を上がった。
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