三月と紫煙(さんがつとしえん)

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 2階の角部屋は、古い勉強机と大きな本棚、シングルベッドが置いてあるだけのフローリングの部屋だった。  意外にもほこりっぽさはなく、床は掃除機をかけたばかりらしい。  布団に腰掛けると柔らかな日光の匂いがした。  おそらくこの部屋を用意していて、居間の掃除が間に合わなかったのだろう。そう気づいて三月の頬が緩む。 「もぉ。居間のお掃除、がんばっちゃおうかなっ」    綻ぶ口もとを隠しながら三月は一階に降りた。そしてガラス戸をガラリと開けながら、 「おにーちゃん! 午前中にこの部屋、座れるように…………あれ?」  居間をのぞくが、ヨシローがいない。  代わりにちゃぶ台の上に紙切れが置いてある。 『三月へ  ちょーっとタバコ代稼いできまーす!  昼すぎには帰るね。チュッ♡  ヨッちゃんより』 「パチンカスがあああーーーー!!!!」  ぐしゃっと置き手紙を握りつぶす三月は、中学生ながら鬼嫁の形相だった。  
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