三月と紫煙(さんがつとしえん)

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「おお、居間がきれい! さすが三月(みつき)、おねーさんになったなあ!」 「えへへ。って、ごまかすなパチンカス!」  書き置き通り昼過ぎに帰ってきて、のんびりと居間を眺めるヨシローの背中を三月がどつく。汚部屋は三月のおかげで見違えるように片付いていた。 「悪かったって。じゃあ昼飯にするか〜」 「あっごめん、まだごはんは用意できてなくて」 「そこまで求めてねえよ。まあ待ってなー」  ヨシローはビニール袋を下げてキッチンに移動する。  その後ろをカルガモの子のように三月もついていく。 「あたしやるよ?」 「あーいいよ、ガキは座ってテレビでも見てろ」 「だからガキじゃないもん。あたしだってあの頃より大きくなったし、料理だって慣れてるから!」  ぴくりとヨシローのこめかみが動いた。そのままチラリと横目で一瞥すれば、少女が気まずそうに視線を左右させている。 「邪魔。あっち行ってろ」  しっしと手を振るヨシローに、三月はしゅんと肩を落とす。  その背中があまりにも可哀想すぎて、ヨシローは少しだけ口ごもってから、 「ここにいる間の飯くらい、俺が作ってやりたいんだ」  つぶやく声に、居間に戻りかけた三月の足が止まる。 「俺みたいなクズがおまえにしてやれることなんて、こんなことくらいしかねーからよ」 「そ、そんなことないよ!」 「おめーのとーちゃんに養ってもらってる手前、なにかしないと……。罪悪感で胸がキリキリと痛むっていうか……」  振り返った三月はポカン口を開けて呆れていた。  そして。 「おにーちゃんも働けばいいじゃん」 「うぐっ、ぜったい無理!!」  少女の身を刺す正論を、全力で拒むクズだった。  
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